当たり前のことだが、これまで福島原発事故で安全を主張してきた学者達は、その根拠を政府(経済産業省原子力安全・保安院)が発表してきたデータを元にしていた。だがそれらの重要な点が虚偽であったことが今に至るまで次々と明るみなってきた。

 内閣府原子力安全委員会は23日、東京電力福島第一原子力発電所から大気中に放出された放射性物質の量が、放出量が落ち着いた今月5日の時点でも、1日あたり154テラ・ベクレル(1テラは1兆)に達していたことを明らかにした。 

 5日に福島第一原発から大気に放出された放射性物質の推定値は、ヨウ素131が毎時0・69テラ・ベクレル、セシウム137が同0・14テラ・ベクレル。国際的な事故評価尺度(INES)で使われるヨウ素換算値で、ヨウ素とセシウムの合計量を計算し直すと、放出量は同6・4テラ・ベクレル(24時間で154テラ・ベクレル)となることがわかった。同委員会はこれまで、5日ごろの放出量について、セシウムとヨウ素の量を単純に合計し、「毎時約1テラ・ベクレル以下」と低く見積もっていた。

(読売新聞 4.23)
 
ややこしいシステムだが内閣府原子力安全委員会のほうが、経済産業省原子力安全・保安院よりも幾分良心的なようだ。だが彼らとてかくも大幅に被害数値を過小評価していたのだから日本は救いようが無い状態だったのであろう。
 
だがこれらの誤認などまだかわいいほうなのかもしれない。既に3月の段階で福島原発では放射能の放出量が3月15日夜までに約19万テラベクレルに達していたのだから(当然当時はこのことを安全委員会とて報告していなかった)。

 東京電力福島第一原発の事故で、大気への放射能(放射性物質)の放出量が3月15日夜までに約19万テラベクレル(テラは1兆倍、放射性ヨウ素換算)で、国際的な事故評価尺度(INES)で最悪のレベル7に達していた。原子力安全委員会の試算でわかった。 

 安全委などは4月12日にレベル7を発表、その夜に政府高官が「3月15~17日の時点で、レベル7に相当する量が放出されていた」との見方を示していたが、数字上も裏付けられた。 

 3月15日朝には、2号機の原子炉格納容器につながる圧力抑制室が爆発しており、この影響を受けている可能性がある。 

 今回判明したのは、3月15日午後9時までの放出総量で、約19万テラベクレル。レベル7の判断基準となる5万テラベクレルを超えていた。14日までには5万テラベクレルに達していなかったとされる。安全委は3月11日の地震以降、4月5日までの放出量の総量は63万テラベクレルと試算していた。  

 
(朝日新聞 4.24)
 
ここまで苛烈かつ凄愴な状態であったにもかかわらず、このときの保安院は、事故ではなくレベル3の事象だと日本及び世界に向けて発表していた。

 経済産業省原子力安全・保安院が、福島第一原子力発電所の事故について、事故やトラブルの深刻さを示す国際原子力事象評価尺度(INES)で当初は「レベル3」と暫定評価していたことがわかった。レベル3は「事故」ではなく「事象」に分類される。保安院の初動の認識が甘かったことを示した。 

 保安院は3月12日夜の記者会見でINESで「事故」にあたるレベル4と発表した。その後、旧ソ連チェルノブイリ原発事故に匹敵する最高のレベル7にまで引き上げられた。 

 レベル3の評価は地震発生から約10時間後の3月12日午前0時半の段階。福島第一1~3号機、福島第二1、2、4号機について地震と津波の影響で、外部電源も非常用電源も使えなくなっており、原子炉から熱を除く機能が失われたことから評価した。 

 その2時間半後には福島第一原発で放射性物質を含む蒸気を外部へ放出する排気(ベント)の方針が発表された。このころ、すでに原子炉につながる配管の隙間などから放射性物質が外部に漏れ出していたとみられ、12日午前6時には中央制御室の放射線量が通常の1千倍に上がったと公表された。 

 住田健二・大阪大名誉教授は「進行中の事故を評価するのは難しい」としたうえで、当初レベル3とした評価について「今からふりかえってみれば、認識が甘かった証しなのではないか」と話している。

(朝日新聞 4.23)
 
斯様に保安院の無知蒙昧ともいえる見解によって大幅に事故への対処及び住民への退避勧告が遅れたうえ、不適切な対応をも齎す結果となってしまったようだ。
 
同時にこうした保安員の実情も知らずにその誤ったデータを用いて国民に向かって異口同音に「日本の原発は安全だから事故の心配は無い」と喧伝してきテレビ学者達の軽挙妄動にしてもその責任も軽くは無いであろう。
 
そして保安院の杜撰で拙劣な放射能対策は今なお邁進中のようだ。

 経済産業原子力安全・保安院は23日、東京電力が福島第一原子力発電所3、4号機の近くで毎時900ミリ・シーベルトに達する高放射線量のがれきを発見し、撤去したと発表した。 

 これまでに確認されたがれきの放射線量は、最高でも毎時100~200ミリ・シーベルト程度で、今回のがれきは「3号機の水素爆発と関連している可能性がある」と説明している。 

 見つかったのは、縦横が各30センチ、厚さ5センチのコンクリート片。東電が20日午後に見つけ、21日に有人の重機で鋼製コンテナに回収した。コンテナから約1メートルの距離で測った線量は、毎時1・1ミリ・シーベルトに落ちていたという。 

 保安院は、コンクリート片の発見後すぐに東電から報告を受けていたが、公表していなかった。西山英彦審議官は、「今後は、分かったことはすぐに公表したい」と話している。

(読売新聞 4.23)
 
天下り団体である保安院の無知蒙昧も結構だが、相手は放射能という通常の事故と比較にならないほどの巨大な破壊力を持っている。それが多くの国民の生命と健康を膨大に蝕むだけに一連の政府と東電の大失態は歴史的大悪行として日本史に刻み続けられていくことだろう。
 
もちろん彼らの大失態はこれだけにとどまらない。東電側の危機管理能力の著しい欠如が事態を地球規模の大惨事に引き上げてしまったわけだが、そのもう一つの主要因が米国側の調査で明らかにされた。

 23日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、福島第一原子力発電所の事故について、放射性物質の外部放出を懸念し、東京電力が格納容器内のガスの排出をためらったことで水素爆発を招いたとする分析記事を掲載した。 

 同紙は、同原発1号機は地震・津波の発生から半日たった3月12日午前2時半に格納容器内の圧力が2倍に達し、東電は排気を決めたとしている。 

 しかし、準備などに手間取り、実際に排気できたのは同日午後。その約1時間後に水素爆発が起きて原子炉建屋が破壊された。これに伴う炉心の損傷はなかったが、「壁」の一つが失われたことでその後の大量の放射性物質の放出につながったほか、炉の冷却のための作業を妨げる原因にもなった。 

 同紙によると、日米の専門家は排気の遅れで水素爆発が起きやすい条件ができたと考えている。放射性物質と水素を含む格納容器内のガスは、排気専用のパイプを経由して建屋の外にある排気塔に導かれるが、圧力が2倍になるまで待ったため、パイプの継ぎ目などからガスが漏れやすくなり、建屋内に充満した可能性があるという。 

 専門家は「放射性物質の放出を心配するあまり排気に慎重になったことが、事態を悪化させたようだ」とみている。水素爆発の防止を重視する米国は、格納容器内の圧力が耐圧の上限に達する前でも早めに排気を行うことにしており、同様の方針は韓国や台湾でも採用されていると指摘している。 

 米国では、1979年のスリーマイル島原発事故で作業員の判断ですばやく排気が行われ、原子力規制委員会(NRC)が追認したが、日本では排気は「最後の手段」として、電力会社のトップや政府の判断を待ってから行う体制。記事はこうした考え方の違いも排気の遅れにつながった可能性を指摘した。

(朝日 4.24)
 
驚愕と戦慄に横溢されてしまわれそうな実態が次々と明らかにされているが、かくも危険極まりない原発行政を行っていながら政府と電力会社はこれまでよくも臆面も無く「日本の原発は安全だ」などぬけぬけと公言してきたものだ。ここまで彼らの主張が現実と著しく乖離(かいり)している現実を鑑みれば、彼らに対して偽証罪も十分に適応できるのではないだろうか。